PROJECT 03

バッテリー交換式EV開発プロジェクト

物流を支える商用車メーカーとして、ISUZUが取り組む新しい挑戦。それは、EVの弱点を克服する「バッテリー交換式EV」です。カーボンニュートラル社会の実現に貢献する革新的なプロジェクトを、開発に携わる4名の若手社員の話からご紹介します。

バッテリー交換式EV開発プロジェクト
MEMBER
M.S
xEVシステム開発第一部
xEV先行開発グループ

バッテリーの自動交換を可能にする車載コントローラーの開発を担当。新分野の制御設計に挑み、技術と経験を積み重ねる。

A.Ki
CN事業企画部

プロジェクトの事業企画を担当。ビジネスとしての採算性を確保するため、全体を俯瞰し戦略を練る。

A.Ka
システム企画部
アフター領域グループ

プロジェクト全体のシステムを統合管理するITシステムの企画・導入を担当。新規事業の立ち上げにも関わる。

M.O
IM推進部
内製化推進グループ

交換ステーションの全体開発を担当。機械工学や電気工学など幅広い知識を活かして、新たな挑戦に挑む。

STORY 01新しいことがはじまる
という大きな期待

今、地球規模で取り組まれている「カーボンニュートラル」という大きな変革。これに対する一つの答えとして、ISUZUはEV化を進めている。しかし、積載量が大きなトラックのEVとなると、「充電時間が長くなる」という課題があった。その時間の長さは、お客様にとってはビジネスが止まってしまう時間であり、収益機会の損失につながってしまう。これを解決するため、ISUZUが辿り着いたのが「バッテリー交換式EV」という答えだった。充電するのではなく、満充電のバッテリーを素早く交換する。逆転ともいえる発想は、従来のトラックメーカーの枠を超え、ISUZUが「商用モビリティソリューションカンパニー」へと進化するための第一歩となる。
このプロジェクトに、異なる分野の4名が集められた。「交換式」というからには車両とバッテリーの交換ステーションを同時に開発することが必要。そのうち、交換ステーションはISUZUでも前例がない取り組みであり、そして、プロジェクトの肝となる。その開発の中心人物として声がかかったのが、バッテリーの生産技術開発に携わってきたIM推進部のM.Oだ。交換ステーションの設計から部品の手配、組み立て、立ち上げまで、すべてを担当している。一方、自ら志願してプロジェクトに参加したxEV先行開発グループのM.Sは、車両とステーションを通信させ、自動でバッテリーを交換する車載コントローラーの開発を担う。また、システム企画部に所属するA.Kaは、過去にEV関連システムの開発経験があったことから、プロジェクトに参画することになった。彼の役割は、車両とステーション、バッテリーを統合管理するITシステムの企画・導入だ。そして、CN事業企画部のA.Kiは、このプロジェクトのビジネス全体を俯瞰する。どういった実証をすればいいのか、事業の採算性をどのように確保するのか、お客様やパートナーと協力しながら、新しいビジネスの形を創造していく役割を担う。
彼らに共通しているのは、新しいことに取り組めるという期待。ISUZUの新たな挑戦は、4名のプロフェッショナルな知見と熱い思いによって、前進していった。

STORY 02深掘りするごとに現れる課題

プロジェクトの道のりは、決して平坦ではなかった。それぞれが、これまでの経験では想像もつかなかった大きなハードルに直面することになる。
それは、交換ステーションの開発を担うM.Oにとって、車両のハンドリングだったという。「バッテリーを交換するためには、ステーションに車両を載せたまま、横方向にずらしたり、わずかに持ち上げたりする必要があります。車両の重量は最大7.5トンにもなり、私が設計してきた部品用の生産設備とくらべると、約37倍にもなるんです」と、M.Oは話す。過去の経験則は通用しない。M.Oは強度計算や出力計算といった綿密な設計検討を重ね、機構部分の先行試作を行うことで、大規模な手戻りのリスクを未然に防いだ。
車両側の開発を担うM.Sには違う角度での壁が出現する。試作車から実証車へと移行する際に、必要な機能が約3倍にまで急増したのだ。「お客様が実際に公道を走ることを想定すると、バッテリーの自動交換機能だけでなく、安全性や異常時の対応といった機能が必要になることが分かりました」と、当時の状況を振り返る。この膨大な課題を乗り越えるために鍵となったのは良質なコミュニケーションだ。彼は自分ひとりで抱え込まず、M.Oをはじめとする関係部署やサプライヤーと密に連携を取り、積極的に意見交換を重ねた。
実証車への移行にあたり、ITシステムの構築を担当したA.Kaは、商業化を見据えた実証試験のステップに即して、ITシステムとしてどこまで対応させるかを慎重に検討したと振り返る。「交換式バッテリーを車両から切り離して蓄電池として活用する『エネルギーマネジメント』という新たなビジネスの可能性も見えてきたんです。そこで議論は複雑さを増し、スコープを定めるには時間を要しました。しかし、その過程がシステムとしての役割を明確化することにつながりました」とA.Ka。
エネルギーマネジメントは、事業の採算性を考えるA.Kiにとっても、大きな課題となった。「商用車メーカーであるISUZUが電力の領域に参入する。これは、バッテリー交換式EVだからこそ辿り着けたことです。しかし、まったくの新しい試みであり、そもそも何からはじめればいいのか、どうすれば実現できるのか、手探りの日々が続きました」と、A.Kiは語る。そこで、ISUZU単独で解決するのではなく、協創できるパートナーを探すことに切り替えた。新しいことを進めていくために、社外と協創する。それは、100年以上の歴史を持つISUZUが、次に向かっていく上での重要な鍵となる。

STORY 03挑戦の先にある、
未来の社会と自己の成長

現在進行中のこのプロジェクトが社会にもたらす価値は、計り知れない。だが、課題はまだまだある。それを乗り越えていくために大切なことは何か。その問いに対し、A.Kiは「お客様と一緒につくり上げていくこと」が第一の視点だと語る。どんなに素晴らしい技術があっても、お客様に選ばれなければ普及はしない。実証試験を通じて、お客様に実際に使ってもらい、その使い勝手やそこから得られる新たな課題を共に解決していく姿勢が大切だと、力強く訴える。この意見に3名も深く同意し、お客様満足度が会社の掲げる目標であることからも、この考えがプロジェクト全体に浸透していることがうかがえる。また、A.Kaは社内のコミュニケーションを重視したいという。「たとえば、ITシステムではこうした方がいいと思っていても、技術的な課題から実現が難しいこともある。そのため、フランクに相談し合える関係性を築き、密に連携しながら丁寧にプロジェクトを進めることが、お客様が本当に求めることを実現するためには必要だと思います」と話す。
そして、このプロジェクトがもたらす価値は、社会課題の解決や会社の成長には留まらない。M.Sは、「世の中にない新しいものに関わった経験そのものが、自分自身の価値にもなっていると思います」と、その手応えを話す。一方M.Oは、このプロジェクトで得られた最も重要な価値は「挑戦心」だという。「未知のことに果敢に挑み続けたからこそ、大きな活動に成長させることができたと実感しており、この挑戦心を忘れずに新たな課題に取り組んでいきたい」と、今後の意気込みを語ってくれた。
お客様に対して、充電にかかる時間という課題を解決し、持続可能な社会に貢献しつつ、稼働を止めないための新しい選択肢を提供できる大きなプロジェクト。これは貴重な「前例」となり、商用モビリティソリューションカンパニーへと進化していくための土壌となる。この「土壌づくり」こそが、従来のトラックメーカーから脱却し、未来へ向かうISUZUの大きな一歩となるのだ。※取材当時の情報です。

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